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福岡高等裁判所 昭和41年(ネ)259号 判決 1966年12月15日

主文

原判決を取り消す。

被控訴人は控訴人に対し金五一万三、一三九円およびこれに対する昭和三八年五月二七日以降完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、控訴代理人において、(一)控訴人が予備的請求原因として主張するところは、商法第二三条によつて被控訴人に本件金員の支払を求めるのである、(二)合資会社鵜ノ木商店は本件訴訟提起後会社合併により株式会社鵜ノ木(控訴会社)となつたのである、と述べた。被控訴代理人において、控訴人の前記(一)の主張はこれを否認し、同(二)の事実はこれを認める、と述べた。

証拠(省略)

理由

一、合資会社鵜ノ木商店(以下単に鵜ノ木商店という)が本件訴訟提起後会社合併により株式会社鵜ノ木(控訴会社)となつたことは当事者間争がない。

二、鵜ノ木商店ないし控訴会社が食料品の卸売りを営む会社であることは、原審における控訴会社代表者鵜木茂利の本人尋問の結果によつてこれを認めることができる。控訴人は、鵜ノ木商店がその主張の如く海産物を被控訴人に売り渡したと主張するけれども、控訴人援用の証拠をもつては、未だこれを認めることはできない。かえつて、原審における控訴会社代表者鵜ノ木茂利の本人尋問の結果により成立を認める甲第一号証の一ないし五、原審証人篠崎敬子、同堤秀子、同富松政明の各証言、原審および当審における前記本人尋問の結果並びに原審(第一回)および当審における被控訴本人尋問の結果の一部を総合すると、被控訴人は昭和三六年六月から福岡市住吉区新簑島六〇一番地の借家を店舗とし「現金屋」の商号のもとに、訴外亡篠崎豊を使用人とし電気器具商を経営していたが、経営不振のため昭和三七年五月頃これを廃業し、他所に引越したこと、一方篠崎は右店舗で同一商号のもとに自ら食料店を経営するため同年八月頃被控訴人の義兄訴外楢崎俊輔に依頼し、予て楢崎の知合である鵜ノ木商店の代表者鵜木茂利に自己を紹介して貰い、その際楢崎を介して「義弟堤清彦が「現金屋」の商号で電気器具商をしているが、食料品を販売するようになつたので品物を卸して貰いたい」旨商品の取引方を依頼したこと、そこでこれを信用した鵜ノ木商店代表者鵜木は取引の相手方は「現金屋」こと被控訴人なりと信じて控訴人主張の期間その主張の如き約定で「現金屋」および被控訴人の氏名、を用いる篠崎に対し食料品を継続販売したところその間の未払代金が合計金五一万三、一三九円となつたことが認められ、右認定に副わない原審証人楢崎俊輔の証言は措信できず、他に右認定を覆えす証拠はない。

そこで、訴外篠崎の前記取引について、同人に被控訴人が前記商号および自己の氏名の使用を許諾したか否かについて検討する。

成立に争のない甲第五号証の一、二、同第六号証の一、原審証人林宏の証言により成立を認める甲第五号証の三、同第六号証の二(但し、甲第五号証の三のうち「堤清修」なる印影、甲第六号証の二のうち、日付、氏名、住所、通帳番号および印鑑欄中「堤清修」なる印影はいずれも当事者間争がない)に右証人の証言、原審(第一、二回)および当審における被控訴本人尋問の結果の一部、並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められるすなわち、

(一)  被控訴人は前記の如く電気器具商を辞め、他に引越すとき従前店舗に掲げていた「現金屋」と記載した看板をそのままにしておき、また自己の営業当時使用していた事務机、スタンプ台、被控訴人名義のゴム印と印鑑および小切手帳を右店舗に置いたままにしていたこと、そして被控訴人は篠崎が「現金屋」の商号で食料品店を経営することおよびその仮経営していたのを了知していたこと。

(二)  篠崎は右被控訴人の印鑑及びゴム印を使用して昭和三八年二月頃まで被控訴人名義で鵜ノ木商店に宛て約束手形を振出していたこと、

(三)  被控訴人は自己の右営業当時売上金を「現金屋」および被控訴人名義で福岡銀行住吉支店に普通預金にし、その預金の出し入れについて被控訴人名義の前記印鑑を使用していたのであるが、篠崎が食料品店を始めるに当つて、同人に自己の右預金口座(被控訴人の最後の預金残高は昭和三七年六月二八日における金二二一円であつた)を利用することを承諾したので、篠崎がその後昭和三八年三月一六日まで右印鑑を用いて(但し昭和三八年一月二五日該印鑑を別個の被控訴人名義の印鑑に改印届をしている)右預金口座に預金の出し入れをしてきたこと、

がそれぞれ認められる。

そこで右各認定事実に、前記認定に係る篠崎が被控訴人の営業当時被控訴人の使用人であつたことおよび同人が被控訴人の経営当時の店舗を使用したこと、を合せ考えると、被控訴人は篠崎が食料品店を経営中、被控訴人の従前の商号である「現金屋」および被控訴人の氏名を使用することを少なくとも暗黙に許諾していたものであると推認するを相当とする。右認定に副わない原審(第一、二回)および当審における被控訴本人尋問の結果は措信できず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

三、しからば、被控訴人は商法第二三条により、控訴人に対し、篠崎豊が鵜ノ木商店との取引によつて負担するに至つた前記未払代金合計五一万三、一三九円およびこれに対する本件支払命令送達の翌日であること記録上明らかな昭和三八年五月二七日以降完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、控訴人の本訴請求はこれを認容すべきである。

よつて、これと結論を異にする原判決を取り消し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

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